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#002  『深海に降る雪』

 その 『雪列車』 は、大雪の降った日になると、深夜を回る時刻に必ず私の家の裏手に現れる。
 それは何のことはない、私の住まいの裏を走る線路の雪を夜のうちにかき出してゆく、ただのラッセル車である。
 だが、私はその光景を見るのが好きだ。

 真夜中の線路を覆う闇と静寂。しんしんと止むことなく降り続ける乾いた雪。その中を煌々と明かりを照らしながらゆっくりと進むラッセル車は、まるで深海に降る雪の中を走る、幻想の雪列車のようだ。

 雪列車は人知れず、夜の海の底を走り続けている。ラッセル車の姿を借りているが、もし見た者が望むならば、無骨な車体は流麗な客車に姿を変え、深海に広がる雪原への旅に連れて行ってくれるのだ…。


 
               (08年 3月 3日 記)
  
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