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#006 京都シリーズ 『 祇園の夜 』

 思わせぶりなタイトルをつけてしまったが、祇園では遊んでいない。ただ歩いただけである。思ったよりも静かな町だと言うのが、ひと回りした印象だったが、のれん一枚くぐれば京ならではの、粋で瀟洒な夜の宴がとり行われているのだろうと思うと、何やら妖しいような、近寄り難いような、不思議な町だった。

 私が京都と東京と言う、二つの町を同じくらいに好んでいると言うことは前回も書いたが、両者に共通する魅力は、その町が持つ 『深さ』 であろうと思う。だが、それぞれの深さのベクトルは、正反対の方向を向いている。

 東京は日本の首都として、あらゆるものが常に刷新されていく。最先端の文化がきらびやかに時代を形作っていく、そのすぐそばで、たった十年前のものが過去のものとして朽ち果ててゆく。そうやって上へ、先へと向けて積み重ねられた時間の層が生み出す、新鮮なのに退廃的と言う、摩訶不思議な大都会の 『深さ』 が私は好きなのである。

 京都は逆だ。もちろん現代の都市としての進化は続けていると思うが、それ以上に千余年に渡る歴史が魅力の根源であることは間違いない。
 京都の第一印象が 「他の町と変わらないな」 と言うものであったことは、これも前回書いたことだが、しかしその現代の町のベールを一枚はがせば、その下には気の遠くなるほど深く、歴史の層がみっしりと積み重ねられている。(これを『下向き』と表現したら語弊があるかもしれないが、私には歴史と言うものは掘り下げていくイメージなのだ)
 そんな千年迷宮とも呼ぶべき町の 『深さ』 の底にある、秘密めいた何かが醸し出す香りが、私だけでなく日本中の人々を惹きつける、京都の魅力なのだろうと思う。

                       (08年 2月11日 記)
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